大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口家庭裁判所 昭和44年(家イ)9号 審判

申立人 向井ヨシ子(仮名)

相手方 山本ミネコ(仮名) 外一名

利害関係人 季守全(仮名)

主文

相手方山本ミネコと相手方季一郎との間に、母子関係が存在しないことを確認する。

理由

一、本件申立の要旨は次のとおりである。すなわち、

相手方季一郎は、大韓民国戸籍上に利害関係人季守全と相手方山本ミネコ間の嫡出子として記載されているが、真実は、季守全と申立人の間に生れた非嫡出子である。申立人は昭和一二年頃から○○市内の料亭に女中として住込んで働いていたが、昭和二〇年頃から同料亭の板前をしていた季守全と深い関係になり、翌昭和二一年八月九日○○市内の病院で季一郎を出産した。当時季守全にはすでに山本ミネコがおり、その間に四人の子があつた。そのため申立人は一郎の出生届について苦慮したが、結局季守全、山本ミネコ間の子として届け、将来適当な時期に申立人の戸籍に入れるという相談がまとまり、季守全から一郎の出生届がなされた。しかし、当時は日韓両国間の国交がなかつたので届出の送付手続がなされず、そのため実際には季守全の戸籍にその旨の記載がなされなかつた。ところが、最近になつてこのことを発見した季守全は、下関市駐在の大韓民国領事館へ一郎の出生を申告し、その結果上記のような真実に反する母子関係が戸籍に記載された。よつて、相手方山本ミネコと相手方季一郎との間に母子関係が存在しないことの確認を求める、というのである。

二、本件については、昭和四四年一月二〇日に開かれた調停委員会の調停において、相手方山本ミネコと相手方季一郎間に母子関係が存在しないことにつき、当事者間に合意が成立し、かつその原因についても争いがなかつた。そこで、当裁判所は必要な事実調査をつくしたところ、申立人主張の事実が認められた。

三、相手方両名はいずれも大韓民国に国籍をもつものであるが、永らく日本に住所があるものであるから、わが国の裁判所が裁判管轄権を有することは明らである。そこで、本件の準拠法についてみるに、相手方両名間に母子関係不存在の確認を求めるものが本件であつて、かかる場合につき法例に直接の規定はないけれども、婚外親子関係発生の問題に関する法例一八条一項の趣旨を類推して適用するのが相当と考えられる。したがつて、本件の準拠法は大韓民国であるべきところ、同国民法八六五条、八六二条によれば、血縁上親子関係がない場合には、利害関係人は嫡出親子関係存否確認の訴を提起することができるとされている(その手続は、同国家事審判法によれば、家庭法院に対して審判請求をすることによつて行なうものとされ、乙類審判事項とされている。)。しかして本件は、わが国の裁判所に申立をしたものである以上、その母子関係存否確認の手続については、わが国の法律によるべきものである。よつて、当裁判所は、調停委員田代シズ子、同金原貞一の意見を聴いたうえ、当事者間の合意は正当であると認めるので、家事審判法二三条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 小川喜久夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例